地方都市をはじめ、全国の地域に根ざしてビジネスを展開する小規模事業者にとって、「周辺環境の変化」や「大口顧客の離脱」はまさに死活問題です。
最近話題になった「大和ハウス プレミストドーム(以下:「札幌ドーム」)の黒字転換」のニュースは、まさにこのビジネスの壁をどう乗り越えるかという、生きた教科書と言えるでしょう。
北海道日本ハムファイターズという巨大な顧客が離れ、過去最大の赤字を計上した前体制から、新社長就任後わずかな期間で黒字化の見通しを立てた現体制。
この両者の「経営に対するスタンスの違い」には、私たち小さな事業者が学ぶべき重要なヒントが隠されています。
1. 「既存の強み」に依存するリスクと「待ち」の姿勢
前体制の経営においてしばしば指摘されたのは、行政的な「施設管理」の視点が強かった点です。
例えば、数十億円の売上を支えていた大口顧客(球団)が抜けた後、数億円をかけてアリーナを仕切る「新モード」を導入しました。
これは「設備(ハード)を整えれば、自然と使ってくれる人が現れるだろう」という受動的なアプローチです。
これは私たち小規模事業者も陥りやすい罠です。
「良い商品を作れば売れるはず」
「お店を開けていればお客さんは来るはず」
というプロダクトアウトの思考や、特定の主要取引先に依存しきった状態は、環境の変化が起きたときに一気に脆さを露呈します。
役所出身者の当時の社長が、過去最大の赤字を出した理由について
「見通しが甘かったには抵抗がある」
「(平日に)プロ野球をやらせてくれないので」
といった趣旨の発言は物議を醸しました。
経営が苦しくなった際、その要因を「市場のせい」「環境のせい」「顧客のせい」と外部要因に求めてしまう心理は、経営者であれば誰しも自戒を込めて気をつけたいポイントです。
2. トップセールスと「失敗を許容する」マインド
一方、民間(旅行業界)出身の阿部新社長は、就任直後からまったく異なるアプローチをとりました。
ハコ(施設)の管理にとどまらず、自らの人脈を活かしてeスポーツの国際大会や大型コンサートを自ら「獲りにいく」トップセールスを展開。
さらに、ネーミングライツによる安定収入の確保や、外国人観光客向けのアクティビティなど、新たな収益源を多角的に模索しました。
特に印象的なのは、
「トップが挑戦しない組織に新しいものは生まれない」
「100個アイデアを出して、3〜5個当たれば大儲け。いっぱい考えて、失敗しても戻って考えて実績を作る」
という姿勢です。
資金力に乏しい小規模事業者こそ、この「多産多死(たくさん試して、ダメならすぐ次へ行く)」のアプローチが必要ではないでしょうか。
完璧な計画を立ててじっと待つのではなく、小さくテストして、市場の反応を見ながら改善を繰り返す。
このアジャイル(俊敏)な姿勢が、停滞を打破する原動力になります。
3. 私たち地方事業者が明日からできる3つのこと
札幌ドームの事例から、私たちが自社のビジネスに置き換えて実践できるのは以下の3点です。
- 大口顧客・既存サービスへの依存度を見直す(売上の柱を複数持つ工夫をする)
- 「他責」を捨て、「自責」でコントロールできる部分に集中する(環境を嘆くのではなく、今ある資源で何ができるかを考える)
- 完璧主義を捨てて、まずは小さく試す(新しいアイデアを出し、フットワーク軽く実行する)
ピンチに陥ったときこそ、経営者のマインドセット一つで組織や事業の方向性は大きく変わります。
札幌ドームの「第2の創業期」の挑戦は、規模の大小を問わず、ビジネスの最前線に立つ私たちに勇気と教訓を与えてくれます。
(参考)前社長と現社長の比較
| (前社長:2021年〜2024年) | 阿部晃士(現社長:2024年〜現在) | |
| キャリア | 札幌市役所OB(行政・公務員出身) | 元JTB 北海道広域代表(民間・旅行業出身) JTB時代に過酷な競争環境やコロナ禍での事業縮小(香港赴任時)など、シビアなビジネスの最前線を経験 |
| 経営スタンス | 施設管理型・ハードウェア依存 | 事業創造・課題解決型(多角化経営) |
| 営業の姿勢 | 受動的(需要を「待つ」) | 主体的(トップセールスで「獲りにいく」) |
| 象徴的な発言 | 「プロ野球をやらせてくれないのでね」「見通しが甘かったには抵抗がある」 | 「達成の自信は200%ある」「100個アイデアを出して、失敗してもいい」 |